会計情報システム(itシステムだけではなく、原価報告書などの紙を含む)では、同じ情報でもグラフや表など違う表示形式を行っていることがあります。実際に表かグラフかの表示形式の違いなどが意思決定への影響はあるのかについて、調べた論文があったので読んでみました。
(意思決定者の原価計算の知識レベルに応じた、原価報告書の表示形式の利益的影響)
意思決定者が持つ原価計算の知識レベルとデータの表示形式(グラフか表か)が意思決定者のパフォーマンスにあたえる影響について、実験を通じて調べた論文です。
実験結果としては、表示形式と原価計算知識の間に強い関連性があることが示唆されました。具体的には、原価計算の知識レベルが低い意思決定者は、表形式と比較してグラフ形式を使用すると、より高い利益を得ることができました。さらに驚くべきことに、原価に関する知識レベルが高い意思決定者においては、(表に対して)グラフが利益に悪影響を及ぼしていました。この論文の面白いことはユーザーの知識レベルによって結果が変わるということということです。
実験方法
- 参加者(4年間のビジネスプログラムに参加しABCが含まれる会計コースを少なくとも2つ修了している55人の学生)に2つの事前テストを与え、原価計算の知識レベルを測定した
- ある企業の会計情報としてABC(Activity-Based Costing)による顧客収益性のデータを表形式(図1)またはグラフ形式(図2)の表示形式で受け取った(ABCは会計知識がある人にとっても複雑な分析が必要な手法)
- グラフか表をもとに戦略決定をして、その戦略がより正解(利益が高いか)に近い付いてるかどうかを測定した。
下記表の①、②、③、④ののグループの結果を比較することで、表かグラフをみた場合の属性と事前テストが高いか低いかの2つの属性が意思決定にどのように影響するかがわかります。
事前テストが高い | 事前テストが低い | |
表を渡された | ① | ② |
グラフを渡された | ③ | ④ |
結果
結果として、テストの点数は①より③のほうが高い傾向になり、②より④のほうが高い傾向になりました。原価計算知識の水準が低い参加者はグラフ形式で表示した方がより多くの利益を得た一方、原価計算知識の水準が高い参加者は表形式で表示した方がより多くの利益を得ることができました。
多くの企業の現状は原価計算知識の水準に関係なく、多くの経営者がグラフ形式の会計情報に基づいて費用ベースの意思決定を行っています。しかし、原価計算知識の様々なレベルにおける情報の表示形式の性能評価は既存文献では殆ど注目されていません。この研究では、実験を通して参加者にグラフまたは表形式での会計情報を基に意思決定を行わせることで、参加者の原価計算知識の水準と表示形式ごとの収益性への影響を観察しました。その結果、原価計算知識の水準が低い参加者はグラフ形式で表示した方がより多くの利益を得た一方、原価計算知識の水準が高い参加者は表形式で表示した方がより多くの利益を得ることができました。
したがって、会計情報システムは、原価報告書の形式をユーザーの会計知識の水準に合わせて調整する必要があること、特定の表示形式が利益の改善をもたらす可能性があるかどうかを推定する際には、読み手の知識が重要な属性であることがわかりました。
弊社ではGenKanを導入するユーザーから入手したサイクルタイムなどの生産に関するデータから製品および生産工程の統計的な分析を行っております。分析の結果をダッシュボードやレポートで解説しています。弊社では原価計算知識が高くない人でもわかりやすいダッシュボードの開発に取り組んでいますので、弊社の場合は表よりグラフのほうがよいことがわかりました。